先日、バイトで江戸川のとある工場に行った。
なかなかに広く入り込んだ敷地で迷っている中、あちこちに白詰草を見た。
ある一角にさしかかった時、ふと四つの葉が目に飛び込んできた。
いつもうつむき加減の俺にこそ訪れた幸運と言えよう。
俺は何も考えず、反射的に摘んでしまった。
摘んでしまった後で、旅立つあの人に押し花にして差し上げようかしら？
なんてメルヘンで乙女チックな着想を得た。
ふとまた足下をみると、またしても四つ葉が目についた。
摘んだ。
またある。
摘んだ。
四つ葉どころか五つ葉、六つ葉まである。
俺は仕事も、取引先であることすらも忘れて夢中で摘みに摘んだ。
しかし、虚しく我に返るのにもそう時間はかからなかった。
幸福を貪ろうとする卑しい心に無惨にも摘み取られた葉は、その手から再び地面へと放たれた。

俺は呆然とした。
そして詰草の四つ葉は日当たりが良い場所で多く発生するのだという味気ない道理を思い出した。
余程環境が良かったのだろう。
希少性を失えば幸福や幸運が物の見事に泡と化す。
有り余る程の幸福を俺は自ら手放したのだ。

すまん、とつぶやいて、俺は仕事に戻った。
背中には急に沢山の汗が意識された。