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クリニックの日記

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2019/01/24(木)
「己亥に思う」

 清川町の皆さま 明けましておめでとうございます。今年も診療所、三つ葉、もみの木をよろしくお願い致します。
通勤路の庭先に、蝋梅の花が春の水先案内人となる数多の光を抱き育てていた。
蝋梅やあまたの光うごめいて 明寛
 さて今年は「亥年(つちのとい)」、猪の年ですね。イノシシについては、診療所に来られる方々から「稲がやられた」「野菜が荒らされた」「電柵代もバカにならない」「もう農業はやっちゃおれん」・・と聞かされてきた動物です。干支には十二の動物がいますが、こんなにも憎まれている動物はいません。
そうなると「己亥」という今年、何だか不安になり、どんな年になるか調べてみた。
己は草木が十分に生い茂って整然としている状態で、亥は草木が枯れ落ちて種の内部に草木の生命力が籠っている状態とあった。
つまり2019年は、何事も次の段階に踏み出すために、知識や心や体を育て成長を期する年で、決して暗澹たる年ではなかった。猪にめげることなく力強く生きていくのが今年という歳のようです、頑張りましょう。
今年の正月は、故郷鹿児島へ帰省することもなく過ごした。室生犀星に「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしや うらぶれて 異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや ・・・(小景異情―その二―)」という詩があるが、決して犀星の詩ほど故郷が嫌なわけではなく、両親や弟を亡くしたからか、何となく故郷を遠くに感じるようになっている。
今年も3社参りをした。昨年お賽銭をいれたらブザーが鳴った大国社(今年は鳴らなかった)、杵築の奈多宮、近くの松坂神社に初詣して、家内安全・健康と幸せを祈願し、気持ちがすっきりした感じになり良かった。
正月3日には孫が遊びに来たので、双六、福笑い、紙独楽まわし、トントン相撲などに興じた。今流行りの電子ゲーム遊びではなく
昔風の遊びだったが、孫も喜んでいた。子供の心をくすぐる遊びに今昔はないようだ。そのことを一番感じるのは昔話だ。今でも「ももたろう」「舌きりすずめ」「うらしま太郎」などは面白がる。昔物語と言えば、「猿カニ合戦」を読んでいた時に、昨年患者様から頂いた1個の柿が思い浮かんだ。尖った形でやや赤味を帯びていた。「これは、“じゅうれんじかき“。今は少なくなった」と聞いた。その名を聞いたのは初めてだった。「じゅうれんじかき」は「十連寺柿」と書く。珍しい柿だなと思いながら調べたら、この柿には悲しい物語があることを知った。
 この柿のルーツは、祖母傾山を越えた隣町の高千穂町土呂久集落だ。この部落では、猛毒亜ヒ酸中毒により100人近くの人が、平均39歳で亡くなっていた。水俣病より古い公害病だ。人は勿論だが、大気や土壌の汚染で蜜蜂は消え、椎茸も芽をつけず、十連寺柿も実をつけなくなったのだ。現在は鉱毒対策で自然が回復し、十連寺柿も再び実をつけ始めている。十連寺柿という紙芝居が作られており、その中に患者さんの言葉「たとえ根治の見込みはないと言われましても、生きていく権利があります。また、生きとうございます」があった。公害病を知る中で悲しいのは、水俣病裁判を含め公害病裁判の過程で、一時的にせよ医療者が公害の加害者側に立つことがあることである。土呂久公害裁判でもその傾向が見て取れたのは、悲しみを増幅させた。頂いた十連寺柿は、医療者は常に病む人の側に軸足を置いて、揺らぐことがあってはならないことを再度教えてくれた。
 平成最後の正月は、三社参り、孫との戯れ、十連寺柿の教えと清浄な空気の中で過ごせた。
己亥の今年、イノシシも清浄心の境地に浸り、清川の自然と人の心を、猪突猛進に駆け回り荒らし乱さないで欲しいと祈りたい。
(清川診療所 坪山明寛)

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