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クリニックの日記

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2017/08/28(月)
「偉大なるかな、母とは」

 24時間テレビが今年も終わった。時々スイッチを入れて鑑賞した。今年のテーマは「告白」だった。チャリテイ番組にしては何だか似合わないな〜と思っていたが、それぞれの告白に思わず涙していた。ずっと言いたくて言えなかったことを番組の力を借りて告白するのだ。すこしそこに違和感を感じたが、その違和感を凌駕する純なものを感じたから涙したのだ。番組を見ていて思ったのは、お母さんへの感謝が多かったことだ。
 ある子が言っていた「お母さん髪の毛を結んでくれてありがとう!毎日食事を作ってくれてありがとう!生んでくれてありがとう!」勿論お母さんは涙に埋もれていた。
 いつの日だったか、特攻基地知覧で兵士の手紙を読んだが、そこにもお母さんを偲ぶ言葉が多かった。終戦記念特集でインパール作戦の生き残りの方が語っていたのを忘れられない。「みんな死ぬ時には、お母さんと言って死んでいった。誰も天皇陛下万歳という人はいなかった、一人も」私はその方のふるえる口元を、悔しさと怒りをたたえた目を見て、それが真実だと思った。
 お母さんは凄い!と思うことが、診察室でもよくある。
 ひとりは40代の女性の方だ。ひと月ぶりに会ったのだが、「あれ〜痩せている」と感じた。具合悪いのかな?と心配して「食べられるの?」と尋ねると「元気です!」と、いつものはきはきした声だった。「痩せたのでは・・・」と尋ねると、「はい頑張っています」と返事があった。もう20年以上この方には痩せた方がいいよ、あなたは子供たちに責任あるんだから。このままじゃ倒れるよ」と声をかけてきたが裏切られてきた方だ。
「母が死んだんです。急に」と呟かれた。「お母さんも、いつも私のことを心配していたので、痩せようと思って頑張っているんです」との言葉が続いた。そうなんだ、亡くなったお母さんの言葉を思い出し、噛みしめ、痩せることを決意したのだ。
 もう一人いました、お母さんの教えを忘れていない方が。80代の方です。この暑さのなかで、毎日草むしりに励んでいる方です。
診察室で草むしりの話になった時、手を取ってみると力強い掌と指がありました。爪に黒いものが見えました。土です。その方が「汚い爪じゃな、“らくづめくがみ”とお母さんが言っていた」とぼそりと言った。私はその言葉の意味が分からなかった。よく聞くと「楽爪苦髪」と言ったのだ。「どういうことですか?」と尋ねると「楽していると爪が伸び、苦労していると髪が抜けるということです。私は草取りで苦労しているので、爪が伸びないんですよ」と、爪を擦りながら話してくれた。「ということは、今の女性たちが爪を伸ばしているのは、大いに楽しているということですね」と言ったら、その方は「絵まで描いてるんだから楽なもんでしょうよ」と言って笑った。その笑顔には、苦労を苦労と思わない強さが滲んでいた。
 私はこの二人の話を聞いて“死せる孔明、生ける仲達を走らす”という格言を思い出した。中国は三国志の頃、諸葛孔明が死んで尚、敵の武将司馬仲達を追い払い、蜀の国を救った故事に因んだ格言だ。孔明の偉大さを示している格言だ。
 診察室で語られた二人のお母さんは、亡くなっても今なお、子供さんを導いているということになる。まさに“死せる母、生ける子の手を引く”ということか。
 思えば、103歳7カ月で亡くなった私の母は、小さな菜園で馴れない鍬を振るったり味噌を作ったり高菜の塩もみをしていた。朝早く起きて、自分で作った野菜の入った味噌汁を、必ず朝ごはんに添えてくれた。懸命に私たちを育ててくれた母を見倣い、医師の職を懸命に努めようと思った24時間だった。
(清川診療所 坪山明寛)

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