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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/06/28(金)
「同性愛者の初恋(3)」

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ギトンの結論を言いますと、この「青柳教諭」の思い出は、賢治の当時の年齢(14歳)から考えて、宮澤賢治の同性愛者としての初恋ではないかと思うのです。最初に出した文語詩最終形から受ける全体的な印象が、原体験の悲哀にみちた感傷を思わせますし、【下書稿(1)】の第3連4行目にある「師のきみ」という呼称も、恋人に近い私淑した思いを感じさせます。
‘晩年’とは言っても、賢治は30代ですから、思春期の初恋の感情は、きっかけさえあればありありとよみがえってきたと思うのです。

そこで、中学時代の短歌を見ますと、次の5首は、この1910年9月の岩手山行を詠んだものと考えられています:

75 風さむき岩手のやまにわれらいま校歌をうたふ先生もうたふ
76 いたゞきの焼石を這ふ雲ありてわれらいま立つ西火口原
77 石投げなば雨ふると云ふうみの面はあまりに青くかなしかりけり
78 泡つぶやく声こそかなしいざ逃げんみづうみの碧の見るにたえねば
79 うしろよりにらむものありうしろよりわれらをにらむ青きものあり
 (『歌稿A』『歌稿B』より)

この山行は、9月24日(秋分)未明から柳沢登山道を登り、山頂、薬師火口から、2つの火口湖、御釜湖と御苗代湖を経て、網張に下り小屋泊り、翌朝(日曜)は網張を出発して、小岩井農場を縦断し小岩井(鉄道開通前)に下るコースでした。
75番の「先生」は「青柳教諭」と思われ、77番・78番の「うみの面」「みづうみ」「青きもの」は、湖面に石を投げると麓に雨を降らせるとの言い伝えがある御釜湖を指しているものと推定されます。
これらの短歌では、山頂の熔岩や火口湖の神秘的な青色の水面を見た驚きが中心で、「青柳教諭」については、寒風のすさぶ山頂で、いっしょに校歌を歌って励ましあった交歓の情況が詠まれているだけです。
しかし、後年の文語詩の「痩せて青めるなが頬」は、この湖水の青さの深い印象が、「青柳教諭」への感傷といっしょになって、悲壮なイメージを形成しているのかもしれません☆。

☆(注) 小沢氏をはじめとして、多くの論者の解釈は、『青柳教諭を送る』の【下書稿(1)手入れD】に現れる「ともよ昨日[きそ]かの秘め沼に、/石撃ちしなれはつみびと/わびませる師にさきだちて/そのわらひいとなめげなり」という連を重視して、「岩手山上の火口湖でタブーを犯して石を投げた友の軽率さを想起する。不遜の学友に代って湖神に詫びた先生の敬虔さを慕わしく思う。」(『薄明穹を行く』pp.241-242)として、「青柳教諭」の聖人的なイメージに結び付けています。しかし、「青柳教諭」が湖神に‘謝罪した’という事実を述べている資料は、この手入れの過渡形以外には無いのです。思うに、文語動詞「わぶ」には@謝罪する、以外にA悲しむという意味があります。「わびませる師にさきだちて…」は、湖水の畔に立った「昨日」ではなく、農場の草原を下山している今日の出来事なのですから、‘悲しそうに歩いていらっしゃる先生よりも先に立って歩き、先生を嘲笑うのは…’と解したほうが自然ではないでしょうか。

「小岩井農場」に戻りますと
道形がはっきりしなくなってうろうろしはじめた作者は、遠くの松林の中に立派な道があるのを発見して、それを目標に小川の堰を越えて歩いて行きます:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=163

「それに向ふの松林にまだ狼森ではないだらうが
 ずゐぶん大きなみちがある。
 あれさへ行ったら間違ひない。
 行って見やう。しかしどうだ、
 そこの所に堰がある
 やなぎがぽしやぽしや生いてゐる
  〔……〕
 しかし何だか面白くない。
 みちが又ぼんやりなって
 (草穂もぼしゃぼしゃしてゐるし、)
 却って向ふに立派なみちが
 堤に沿って北へ這って行く。
 ほんたうのみちはあいつらしい」

そして、ここにも、【下書稿】の原稿の欄外に、「あれが網張へ行く道だ/青柳教諭の追懐」というメモが記されています

http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=164
↑こちらの1枚目の地図を見ていただきたいのですが、狼ノ森の東肩で、網張街道と、柳沢方面への道とが岐れています。「堤に沿って北へ這って行く」「立派なみち」は、網張街道だったと思われます。賢治は、そのはっきりした道形を見て、スロープを登って行く人を見た段階ではまだぼんやりしていた中学時代の記憶にも光があたり、「青柳教諭」との出来事を思い出したのではないでしょうか
(つづく)
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