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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。
2013/06/25(火)
「不良教師(6)」
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http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=163
ここには、賢治の理想とする女性像も現れているのだと思います。透明な明るさ、端正で調和した装い、「背が高く真っ直ぐ」……、
「動き出した彫像といふやうに…正しくみんな行き過ぎる」と書いています：
「（あの鐘ぁ十二時すか。）
『はあそでごあんす。』
みんながしづかに答へてゐる。
これではまるでオペラぢゃないか。
動き出した彫像といふやうに
しづかにこっちを見やりながら
正しくみんな行き過ぎる。」
つまり、賢治の眼には、大人の女性は性的対象とは映らなかったのだと思います。
（ただし、少女に対しては、少し違っていたようです。それは、「パート七」で──“帰り”の道行きで現れます。）
さて、農婦たちは午前の仕事を終えて、昼食のために耕耘部へ戻って行くところでした：
「正しくみんな行き過ぎる。
鐘の方へ歩いて行く。
この時間のながれのあかるさ」
「鐘(かね)」とは、正午を告げる耕耘部の西洋風の鐘でした。あたりは、しんと静まって、日の光だけがさんさんと降り注いでいる・農場の昼休みの情景です。一日の作業が時間割にしたがって進行する企業式農場では、昼休みには人も家畜も家の中へ入って昼食をとるからです。
「ありがたい。
もう育牛部の畜舎がみえる。
〔……〕
から松の緑の列や畑の茶いろ。
しんとしてゐる。
日光の底といふものはいつでもしんとしたもんだ。」
http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=163
じつは、賢治が農婦の一団と行き交うことになったのは、道を間違えたからでした。
少し前で（杉林道の写真の少し上）、「こんな処を歩いたやうな気がしない。」と言っています。もっと前の「第五綴」２行目では、「鞍掛が〔…〕あんまり西に偏ってゐる。」とも言っていました。考えごとをしていて、いつも歩いている道から枝道のほうへ曲がってしまったために☆、見える風景がいつもとは違うので違和感を感じているのです：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=164 (「狼ノ森付近拡大図」参照)
☆(注) 『賢治歩行詩考』p.79.
しかし、農婦たちに時間を尋ねた後で：
「ありがたい。
もう育牛部の畜舎がみえる。」
「育牛部」の前を通る・いつもの本道を見つけることができたのでした。
ここで【清書後手入稿】は「第六綴」に入ります。
「みちが俄かにぼんやりなった。
から松はあるし草はみぢかいし
実に野原の模型だけれども
〔……〕
地図にもはっきり引いてある
このみちがこんな風では
何だかすこし便りない。」
賢治はまた道が分からなくなってきました。前に来た時とは道形が変ってしまっているようです。私有地である農場の中にある道ですから、必要に応じて整備して作りますし、使わなければ草や藪が茂って廃道化してしまいます。賢治が持っているのは、陸地測量部〔現在は国土地理院〕の５万分ノ１地形図と思われますが、地図に書いてある道がそのまま有るとは限りません☆。
☆(注) これは、現在の国土地理院地形図でも同じことです。地形図に出ている道は必ず有るものだと思っている人は、山で道に迷う人です。地図が正確なのは測量した時点においてであって、永久にではありません(笑)。そのために、地形図には測量年月日が書いてあるのです。地形図に基づいて作られるナビや観光地図でも、もちろん同じことです。
「から松はあるし草はみぢかいし／実に野原の模型」と言っているのは、“長者館３号”耕地のことで、広い畑のへりに沿ってカラマツが植林されていました。春に播種した牧草か燕麦が生え出てきたところで、一面の芝生のようにきれいな風景になっていたのです：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=164
「向ふもはたけが堀られてゐる。
白い笠がその緩い傾斜をのぼって行く。」
「向こう」に見える「はたけ」は“長者館２号”で、小岩井農場でも最も広い約３７ヘクタール（１枚の畑の広さが600m×600m!!!）の耕地です。ゆるやかに上り坂のスロープになっているので、賢治の歩いている道から、“長者館３号、１号”を隔ててよく見えるのです。
その“長者館２号”の中に切られた農道を「白い笠」の農夫が登って行きます。「はたけが掘られている」と言っているように、“長者館２号”はちょうど今日トウモロコシの播種作業の日なので、長い条痕が一面に引いてあったのです。
（「同性愛者の初恋」へ、つづく）
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http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=163
ここには、賢治の理想とする女性像も現れているのだと思います。透明な明るさ、端正で調和した装い、「背が高く真っ直ぐ」……、
「動き出した彫像といふやうに…正しくみんな行き過ぎる」と書いています：
「（あの鐘ぁ十二時すか。）
『はあそでごあんす。』
みんながしづかに答へてゐる。
これではまるでオペラぢゃないか。
動き出した彫像といふやうに
しづかにこっちを見やりながら
正しくみんな行き過ぎる。」
つまり、賢治の眼には、大人の女性は性的対象とは映らなかったのだと思います。
（ただし、少女に対しては、少し違っていたようです。それは、「パート七」で──“帰り”の道行きで現れます。）
さて、農婦たちは午前の仕事を終えて、昼食のために耕耘部へ戻って行くところでした：
「正しくみんな行き過ぎる。
鐘の方へ歩いて行く。
この時間のながれのあかるさ」
「鐘(かね)」とは、正午を告げる耕耘部の西洋風の鐘でした。あたりは、しんと静まって、日の光だけがさんさんと降り注いでいる・農場の昼休みの情景です。一日の作業が時間割にしたがって進行する企業式農場では、昼休みには人も家畜も家の中へ入って昼食をとるからです。
「ありがたい。
もう育牛部の畜舎がみえる。
〔……〕
から松の緑の列や畑の茶いろ。
しんとしてゐる。
日光の底といふものはいつでもしんとしたもんだ。」
http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=163
じつは、賢治が農婦の一団と行き交うことになったのは、道を間違えたからでした。
少し前で（杉林道の写真の少し上）、「こんな処を歩いたやうな気がしない。」と言っています。もっと前の「第五綴」２行目では、「鞍掛が〔…〕あんまり西に偏ってゐる。」とも言っていました。考えごとをしていて、いつも歩いている道から枝道のほうへ曲がってしまったために☆、見える風景がいつもとは違うので違和感を感じているのです：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=164 (「狼ノ森付近拡大図」参照)
☆(注) 『賢治歩行詩考』p.79.
しかし、農婦たちに時間を尋ねた後で：
「ありがたい。
もう育牛部の畜舎がみえる。」
「育牛部」の前を通る・いつもの本道を見つけることができたのでした。
ここで【清書後手入稿】は「第六綴」に入ります。
「みちが俄かにぼんやりなった。
から松はあるし草はみぢかいし
実に野原の模型だけれども
〔……〕
地図にもはっきり引いてある
このみちがこんな風では
何だかすこし便りない。」
賢治はまた道が分からなくなってきました。前に来た時とは道形が変ってしまっているようです。私有地である農場の中にある道ですから、必要に応じて整備して作りますし、使わなければ草や藪が茂って廃道化してしまいます。賢治が持っているのは、陸地測量部〔現在は国土地理院〕の５万分ノ１地形図と思われますが、地図に書いてある道がそのまま有るとは限りません☆。
☆(注) これは、現在の国土地理院地形図でも同じことです。地形図に出ている道は必ず有るものだと思っている人は、山で道に迷う人です。地図が正確なのは測量した時点においてであって、永久にではありません(笑)。そのために、地形図には測量年月日が書いてあるのです。地形図に基づいて作られるナビや観光地図でも、もちろん同じことです。
「から松はあるし草はみぢかいし／実に野原の模型」と言っているのは、“長者館３号”耕地のことで、広い畑のへりに沿ってカラマツが植林されていました。春に播種した牧草か燕麦が生え出てきたところで、一面の芝生のようにきれいな風景になっていたのです：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=164
「向ふもはたけが堀られてゐる。
白い笠がその緩い傾斜をのぼって行く。」
「向こう」に見える「はたけ」は“長者館２号”で、小岩井農場でも最も広い約３７ヘクタール（１枚の畑の広さが600m×600m!!!）の耕地です。ゆるやかに上り坂のスロープになっているので、賢治の歩いている道から、“長者館３号、１号”を隔ててよく見えるのです。
その“長者館２号”の中に切られた農道を「白い笠」の農夫が登って行きます。「はたけが掘られている」と言っているように、“長者館２号”はちょうど今日トウモロコシの播種作業の日なので、長い条痕が一面に引いてあったのです。
（「同性愛者の初恋」へ、つづく）
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