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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/06/04(火)
「税務署長の冒険(5)」

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http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/1941_17444.html
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2u=http%3A%2F%2Fwww.aozora.gr.jp%2Fcards%2F000081%2Ffiles%2F1941_17444.html
「『おい、どこへ行くんだい。』ホークを持ち首に黒いハンケチを結び付けた一人の立派な男が道の左手の小さな家の前に立って署長に叫んだ。」

「ホーク」は、干し草や堆肥をすくうのに使う大きな三叉(または二叉、四叉など)の農具(ピッチフォーク)のことです:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=160
「首に黒いハンケチを結び付け」ているのは、当時そういうスタイルが流行っていたのでしょうか…。
〔雲影滑れる山のこなた〕という詩では、小岩井農場の事務員が同じスタイルで登場しています:http://kdiary1.fc2.com/cgi-bin/d.cgi/giton/?dt=20130329&rdt=201303
この「黒いハンケチ」については、今のところよく分かりません。‘粋なスタイル’ということで書いているのだと考えておきます。

「もう喧嘩をしたらとても勝てない。一たまりもないと思ったから署長は大急ぎで一つおじぎをして戻り出した。もう大ていいゝだらうと思ってうしろをちょっと振り返って見たらその若者はみちのまん中に傲然と立ってまるでにらみ殺すやうにこっちを見てゐた。そのそばには心配さうな身ぶりをした若い女がより添ってゐたのだ。署長はまるで足が地につかないやうな気がした。」

この“黒いハンカチの男”は密造会社の番人で、工場へ通じる道に「番所」を設けて人の出入りを見張っているということが、のちのち明らかになります。「そのそばには心配さうな身ぶりをした若い女がより添ってゐたのだ。」などと、やや演出過剰なきらいもありますが、‘村ぐるみの犯罪’を強く印象づける場面ではあります。

追い返された署長は、‘番人’から姿が見えなくなるまで戻ってから、道をはずれて草の崖を攀じ登り、道のない稜線伝いに藪漕ぎをして進んで行きます。

「さあいまだと税務署長は考へて一とびにみちから横の草の崖に飛びあがった。それからめちゃくちゃにその丘をのぼった。丘の頂上には小さな三角標があってそこから頂がずうっと向ふのあの三角な丘までつゞいてゐた。」

「三角標」という語はお分かりでしょうか?…
そうです。『銀河鉄道の夜』ではお馴染みの舞台装置ですね。
「三角標」とは、三角点測量のために山のピークに設けられた三角形の木のヤグラです。三角点測量が行なわれていた当時は、各三角点に、このような櫓が設置されていました。現在では、航空写真やGPSなどの手段が使えるようになりましたので、三角点には三角点標石だけが置かれていて、櫓はありません。

「税務署長は汗を拭くひまもなく息をやすめるひまもなくそのきらきらする枯草をこいでそっちの方へ進んだ。どこかで蜂か何かぶうぶう鳴り風はかれ草や松やにのいゝ匂を運んで来た。
 ちょっとふりかへって見るとユグチュユモトの村は平和にきれいに横たはりそのずうっと向ふには河が銀の帯になって流れその岸にはハーナムキヤの町の赤い煙突も見えた。
 署長はちょっとの間濁密をさがすなんてことをいやになってしまった、けれどもまた気を取り直してあの三角山の方へつゝじに足をとられたりしながら急いだ。」

「きらきらする枯草をこいで」「つゝじに足をとられ」「蜂か何かぶうぶう鳴り風はかれ草や松やにのいゝ匂を運んで来た。」「ユグチュユモトの村は平和にきれいに横たはりそのずうっと向ふには河が銀の帯になって流れその岸にはハーナムキヤの町の赤い煙突も見えた」──まさに春の里山の風景です。湯口村や花巻町を俯瞰する山々を彷徨している賢治の姿が見えるようですね
(つづく)
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