無料ケータイHP

ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

累計アクセス:499644
ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/06/03(月)
「税務署長の冒険(4)」

.
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/1941_17444.html
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2u=http%3A%2F%2Fwww.aozora.gr.jp%2Fcards%2F000081%2Ffiles%2F1941_17444.html
さて、『税務署長の冒険』に戻りますと、
署長は椎茸の仲買人に変装して、村の酒屋に聞き込みに行くのですが、そこで出された酒に疑惑を感じます。酒屋は、村外から仕入れたメーカー品の「北の輝」だと言うのですが、仲買人(じつは税務署長)に向って、『私のとこでおろしもしますよ』と言い、
『はあ しかし町で買った方が安いでせう。』と訝しがる署長に、
『さうでもありません。』と答えるのです。
酒屋の主人は、まえもって部下のシラトリが内偵に行った際には、『近頃は道路もよくなっ』て『どこの家でもみんな町から直かに買うから』酒屋の売上げは落ちていると言っていました。村外から入って来る酒は、町で買ったほうが安いのです。にもかかわらず、‘町で売っているのよりも安い酒を卸してやる’と言っているのは、
その酒は「北の輝」ではなく、村でこっそり造った酒だ(酒税を払わないで密造しているので安い)と言っているようなものです。
署長は、酒屋を飛び出すと、密造工場の存在を確信して、「さあもうつかまへるぞ今日中につかまへるぞ」と考えながら、「産業組合」の事務所へ向うのでした。

このように、署長が探索の過程で進めてゆく推理は、農村経済の知識を必要とするものです。
たしかにこの小説はとくに難しい用語もなく、子どもでも読めるものですから、“童話”に分類されています。しかし、細かいところを掘り下げて読んでゆくには大人の社会感覚が必要なのです。その意味で、童話の体裁をとりながらも、作者としては大人の小説を志向して書いているのだと思います。

さて、組合事務所には、若い男がひとりでいるだけで、「髪をてかてか分けて白いしごきをだらりとした若者が椅子に座って何か書いて」いました。
白い「しごき」とは、“しごき帯”のことで、ただの細長いサラシの布を帯がわりにして締め、あまった端をだらっと下げていたのでしょう☆。つまり、ラフながらお洒落を気取っている村の若者のかっこうです。

☆(注) しごき帯は、帯の形に縫っていない一枚布を、しごいて紐状にしたものという意味で、もとは、女性が和服の長い裾を括り上げるために、本来の帯の下に締めていました。現在でも見られるのは、少女の七五三衣装で、あまった端は蝶結びにしています:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=160

ここでも署長は椎茸商人を装って、「産業組合」の内実を聞き出そうとします。

「『今朝はまだどなたもお見えにならないんですか。』『はあ、見えないで。』若者は当惑したやうに答へた。」

つまり、「組合事務所」というのは、密造組織の実体を隠すための単なるカムフラージュとして置かれていることが明らかな状況です。
署長が、今年の椎茸の出来などをいろいろ聞いても、若者は何も分かっていないふうの答え方しかできません。
そこで、署長はカマをかけて、村で取れる椎茸を、自分が借金のかたに取って貯蔵している酒と交換する取引はどうかと持ちかけてみますと、若者は、

「『さあ、だめだらう。酒はこっちにもあるんだから。』『町から買ふんでせう。』『いゝや。』『どこかに酒屋があるんですか。』『酒屋ってわけぢゃない。』」

と、尻尾を出してしまいます。慌てている相手に、署長は、

「『どこですか。』『どこって、組合とはまた別だからね。』若者はぴたっと口をつぐんでしまひました。さあ税務署長はまるで踊りあがるやうな気がした。」

「組合事務所」を出た署長は、椎茸山へ行くふりをして道を山奥へたどって行き、途中行き会った15歳くらいの少年から、道の奥に「会社」があることを聞き出します。何の産業もない僻村の山奥に「会社」とは尋常ではありません。
そこで、「会社」とは密造酒工場に違いないと確信して進んで行くと、「荷馬車のわだちははっきり切り込んでゐた。」つまり、重い荷物を載せた荷馬車が、頻繁に往来している状況です。荷は椎茸のような軽いものではないのです。
(つづく)
.

Image

ログイン


無料ケータイHP


FC2無料ケータイHP