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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/31(金)
「税務署長の冒険(3)」

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「産業組合」構想に関わる・より重要な賢治作品として、童話『ポラーノの広場』があります。
『ポラーノの広場』は、はじめ1924年頃☆〔ポランの広場〕として初期稿が成立し、その後、数箇所の原稿入れ替えと他作品の編入などの改作、推敲を施され、最晩年まで手入れを重ねていたとされる作品です。長期にわたって入念に再考された生前未発表作品として、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』と並ぶ重要な童話とされています。

☆(注) 1924年4〜5月の間に賢治が花巻農学校卒業生の川村俊雄氏に筆写させた原稿が、現存する最初期の草稿となっています。

賢治が最晩年にまとめた『文語詩稿一百篇』の中にある「ポランの広場」という歌には:

「つめくさ灯ともす 宵の広場
 むかしのラルゴを うたひかはし
 雲をもどよもし  夜風にわすれて
 とりいれまじかに 歳よ熟れぬ

 組合理事らは   藁のマント
 山猫博士は    かはのころも
 醸せぬさかづき  その数しらねば
 はるかにめぐりぬ 射手(いて)や蠍」★

と、「組合理事ら」という語句が出てくるのですが、初期稿の〔ポランの広場〕でも、改作された『ポラーノの広場』でも、この部分(第2連)は別の歌詞になっています。

★(注) 歌詞の改作メモの中には、「濁酒をさぐる税務吏や」という語句も見えます。『新校本全集』第11巻・校異篇,p.160.

じっさい、〔ポランの広場〕は、役所勤めの「私」が、知り合った小学生ファゼロに誘われて、山奥の夜の野原で開かれる夢幻的な野外パーティーに参加するというストーリーですが、産業組合のような生産組織の話は出てこないのです。
改作後の『ポラーノの広場』では、「山猫博士」(本名はデストゥパーゴ)は「県の議員」とされ◇、「広場」の林の中で木材乾溜工場に見せかけた密造酒工場を経営し、造った酒で酒盛りをして選挙運動に利用していたことになります。そして、デストゥパーゴが逃げてしまった後、村人やファゼーロたちは残された設備を利用して、革なめし、ハム製造、酢酸醸造などの農林産加工を計画します。
「私」キューストも、

『ぼくは畜産の方にも林産醸造の方にも友だちがあるからみんなさそって来てやるよ。』

と協力を約束します。それを受けてファゼーロは、

『さうだぼくらはみんなで一生けん命ポラーノの広場をさがしたんだ。けれどもやっとのことでそれをさがすとそれは選挙につかふ酒盛りだった。けれどもむかしのほんたうのポラーノの広場はまだどこかにあるやうな気がしてぼくは仕方ない。』

すると、ファゼーロの仲間たちも同意して、

『だからぼくらはぼくらの手でこれからそれを拵えやうでないか。』『さうだあんな卑怯な、みっともないわざとじぶんをごまかすやうなそんなポラーノの広場でなく、そこへ夜行って歌へば、またそこで風を吸へばもう元気がついてあしたの仕事中からだいっぱい勢がよくて面白いやうなさういふポラーノの広場をぼくらはみんなでこさえやう。』『ぼくはきっとできるとおもふ。〔…〕』

と盛り上がり、みなは意気投合して、「新しいポラーノの広場」に、酒でなく水で乾杯するのです。

◇(注) 『税務署長の冒険』でも、密造酒会社の中心人物は「村会議員」とされています。

このように展開してゆく『ポラーノの広場』の改作は、「産業組合」に対する作者の理想(具体的構想ではなく、多分に精神的なものですが)を述べたものとなって行きます
そうした賢治の「産業組合」観、農民の地道な活動に対する関心は、軽妙な小品にすぎない『税務署長の冒険』の中にも現れていると思います
(つづく)
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