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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/28(火)
「すあしの子どもら(6)」

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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=17&bkrow=0

129どのこどもかが笛を吹いてゐる
130それはわたくしにきこえない
131けれどもたしかにふいてゐる
132(ぜんたい笛といふものは
133 きまぐれなひよろひよろの酋長だ)
134みちがぐんぐんうしろから湧き
135過ぎて來た方へたたんで行く
136むら氣な四本の櫻も
137記憶のやうにとほざかる
138たのしい地球の氣圏の春だ
139みんなうたつたりはしつたり
140はねあがつたりするがいい

「どのこどもかが笛を吹いてゐる」は、ふたたび、農場の道を歩いている子どもたちのことを言っています。作者の目は、農業実習の想起から醒めて、眼前の風景へと戻っているのです。なぜなら、118-128行の『太陽マヂック』断片で想起されていたのは、作者と阿部少年2人だけが登場する情景であって、子どもが2人以上登場する場面ではないからです。
「それはわたくしにきこえない/けれどもたしかにふいてゐる」というのは、一種の幻聴かもしれませんが、むしろ、‘聞こえるような気がする’‘聞こえたらよい’という願望のようなものではないでしょうか。この詩行は【下書稿】にはなく、推敲の過程で書かれたものです
目に見える子どもたちの楽しそうな風景が、そうした聴覚の願望を抱かせるのです
「(ぜんたい笛といふものは/きまぐれなひよろひよろの酋長だ)」は、逆に、笛の音という聴覚を、「ひょろひょろの酋長」という視覚映像で表現しています。ほんとうに聞こえるのか気のせいなのか、はっきりしないので、「きまぐれ」だと言うのでしょう。
このように考えてみると、賢治の作品で‘共感覚’と言われているものは、現実に作者の目や耳に、‘音が見えた’‘姿が聞こえた’というようなものでは必ずしもなく(本当の意味での共感覚体験もじっさいにあったでしょうけれども)
作品表現として、見たものを音として、聞こえたものを視覚映像として描く詩的表現方法だったのではないかと思われてくるのです

「みちがぐんぐんうしろから湧き/過ぎて來た方へたたんで行く」というのは、作者が、後ろから来る子どもたちのほうを見ながら、後ろ向きに歩いているからです。かなりの速さでバックしていることが分かります

「むら氣な四本の櫻」──“さくらの幽霊”の再登場ですが、作者は、すでに「へ・3」林地からかなり離れて歩いて来ているので、例のオオヤマザクラの群生もだんだん見えなくなります。
しかし、「記憶のやうにとほざかる」という表現は要注意です。現実の「さくら」の映像が遠ざかるとともに、作者の記憶の中にある“四本の櫻”の映像ないしモチーフが呼び起こされて来るのです。
この“四本の櫻”モチーフの意味については、「パート九」で明らかになるのですが、先取りして言うと、盛岡高等農林時代の同人誌『アザリア』を発刊した・賢治を含む4人の仲間を象徴しているのです

「うたつたりはしつたり/はねあがつたり」は、『太陽マヂック』にも対応する部分があります:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=159

「そこの角から赤髪の子供がひとり、こっちをのぞいてわらってゐます。〔…〕
 さあ、春だ、うたったり走ったり、とびあがったりするがいい。風野又三郎だって、☆大よろこびで髪をぱちゃぱちゃやりながら野はらを飛んであるいて春が来た、春が来たをうたってゐるよ。ほんたうにもう、走ったりうたったり、飛びあがったりするがいい。ぼくたちはいまいそがしいんだよ。」

『太陽マヂック』でも、歌ったり跳ねたりしているのは実習作業で忙しい少年たちではなくもっと年少の子供たち、ないし「風野又三郎」のような自然の妖精たちなのです

さて、「小岩井農場」も、「パート四」を終えてほぼ真ん中まで来ましたので
このへんで、一休みして、ほかの作品をちょっと見たいと思います
(「税務署長の冒険」へ、つづく)

☆(注) 『イーハトーボ農学校の春』への推敲過程では重要な変更はないのですが、唯一注意を惹くのは、ここに「もうガラスのマントをひらひらさせ」という語句が挿入されることです。童話『風の又三郎』の先駆形『風野又三郎』が書かれたのは『太陽マヂック』よりやや早い時期と思われますが、そこでは、赤毛でガラスの靴を履き透き通った鼠色のマントを着た又三郎が登場します。そのマントは、又三郎が去って行く最後の場面で「ガラスマント」になるのです。
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