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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=17&bkrow=0
「緊那羅(きんなら)」は、インド神話の音楽の神々（精霊）で、仏教では護法善神とされ、帝釈天(インドラ神)の眷属です。とりわけ歌声が美しく、天界で音楽を奏でています。キンナラ(Kimnara)は男性形で、女性の場合はキンナリ(Kimnari)といいます。
日本では、阿修羅像で有名な興福寺八部衆の中にある天平時代の緊那羅像が有名です。厳めしい武人の装束ですが、よく見ると顔は若々しい少年の姿です：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=158
ところで、↑この興福寺のキンナラ、さらによく見ると、２つの眼のほかに、おでこに縦の眼がありますね。つまり、三つ目なのです。
さきほどの金緑石のキャッツアイといい、このキンナラのおでこの目といい、詩行の表面の明るさに浮かれている読者を、うしろからじっと見ている誰かの──作者の？…あるいは作者の上からじっと見下ろしている超越的な存在の？──眼を感じないわけにいきません。
賢治のファンタジーは、隠れたところに背筋の寒くなるようなイメージが見え隠れしているような気がします。
楽しい、美しい、輝かしい、…表面をうわ滑っていると気づかない、内部に仕込まれた毒針のような‘隠れたモチーフ’は、この長大なスケッチの深層主題へと繋がってゆく伏線になっているのではないかとも思われるのです…

さて、109-110行で「五本の透明なさくらの木」が再登場しますが、ちょっとここで再び「下丸５〜８号拡大図」を見てください：http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=154
賢治のいる「→」印の位置からも、「へ・３」の木立ちを透して、‘幽霊桜’が見えるのです。木立ちを透しているので、はっきりとは見えないようすを「透明なさくら」と言っているのです。
広大な「下丸７号」耕地の向こうに見えていたときには、４本なのか５本なのかよく分からなかったのですが、裏側から見て、５本であることが判明したのでしょう。
しかし、「透明なさくら」が「青々とかげらふをあげる」光景は、実景である以上に、作者の心象のモチーフとして重要です。
ちょっと飛躍しますが…、結論から言うと、この「さくら」のあげる陽炎は、性的な欲情につながる炎のモチーフだと思います。
「すあしのこどもら」の「調子に合せて」踊っているうちに作者の内部から沸き上がってきた熱い情念が、「鴇いろ」の「さくらの幽霊」に投射して燃え上がってきたのです…

111　わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて
112　きままな林務官のやうに
113　五月のきんいろの外光のなかで
114　口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか
115　たのしい太陽系の春だ
116　みんなはしつたりうたつたり
117　はねあがつたりするがいい

独白調ですが、道すがらのスケッチの続きになっています。「きんいろの外光のなか」を「口笛をふ」いて‘気ままに’歩いている作者自身の姿をスケッチしています。それだけ、作者の心が外に向いてきたのだと思います。
つづいて散文『太陽マヂック』☆の異稿というべき断片が挿入されます。これも【下書稿】には無く、推敲の過程での加入なのです。

☆(注) 推敲後の題名は『イーハトーボ農学校の春』（『新校本全集』第10巻・本文篇pp.40f,校異篇pp.29f.）。
（つづく）
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