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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/22(水)
「すあしの子どもら(2)」

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【下書稿】から引用しますと:

「けれどもやっぱり寂しいぞ。
 口笛を吹け。光の軋り、
 たよりもない光の顫ひ、
 いゝや、誰かがついて来る
 ぞろぞろ誰かがついて来る。
 うしろ向きに歩けといふのだ。
 たしかにたしかに透明な
 光の子供らの一列だ。
 いいとも、調子に合せて、
 いゝか、そら
 足をそろへて。
  Carbon di-oxide to sugar
  Carbon di-oxide to sugar
  Carbon di-oxide to sugar
  Carbon di-oxide to sugar」

「いいとも、調子に合せて、/いゝか、そら/足をそろへて。」は、岡澤氏が想像するように、四ツ森の坂にさしかかった子どもたちが、たがいに「一!二!一!二!」と声を掛け合ったのかもしれませんし、また、運動会で歌う出し物の唱歌を歌ったのかもしれません。
「Carbon di-oxide to sugar」は、子どもたちの歌を、賢治なりにモディファイした歌声ではないでしょうか。「Carbon di-oxide」は二酸化炭素、「sugar」はショ糖(砂糖)。植物の光合成反応 12CO2 + 11H2O → C12H22O11 + 12O2 を歌にしたものではないでしょうか☆

☆(注) 岡澤氏は蔗糖精製の炭酸ガス補充法のことだとしておられますが(『賢治歩行詩考』p.72)、初版本掲載形の115行目に「たのしい太陽系の春だ」とあることから考えても、「二酸化炭素がショ糖に(なる)」とは、光合成を端的に述べたものでしょう。なお、光合成による第一次生産物はグルコース(葡萄糖 C6H12O6)ですが、グルコースの還元性が植物にとっては毒作用となるので、ショ糖(C12H22O11)またはデンプン({C6H10O5}n)に形を変えて貯蔵・運搬されます。

【初版本】掲載形では、つぎのようになります:
http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=16&bkrow=0

101すきとほるものが一列わたくしのあとからくる
102ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り
103またほのぼのとかヾやいてわらふ
104みんなすあしのこどもらだ
105ちらちら瓔珞もゆれてゐるし
106めいめい遠くのうたのひとくさりづつ
107緑金寂静のほのほをたもち
108これらはあるひは天の鼓手、緊那羅のこどもら
109 (五本の透明なさくらの木は
110  青々とかげらふをあげる)
  ………………………………
115たのしい太陽系の春だ
116みんなはしつたりうたつたり
117はねあがつたりするがいい

「ひかり かすれ」は、かげろうに揺れる子どもたちの姿を描いていますし、
「ほのぼのとかヾやいてわらふ」は、休みの日に運動会の練習に行く子供たちの寛いだ笑顔が見えるようです。
「みんなすあしのこどもらだ」──日曜なので、子供たちはみな普段着で、裾の短い浴衣から素足が出ていたでしょうし、多くの子供は裸足で歩いていたかもしれません。

「ちらちら瓔珞もゆれてゐる」──子どもたちが瓔珞を付けているというのは賢治の創作ですが、ゆれる陽炎の中に光り耀く子どもたちの姿は、賢治には、仏界の天使のように見えたのです。‘瓔珞’は、こちら http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=96
この105行目以下は、【下書稿】には対応する部分がなく、推敲過程での創作です。仏教的な夢幻世界になって行きますが、…しかし、単なる空想や、まして幻覚などではなく、現実に出会った農場の子供たちの姿から発展させたファンタジーなのです。
「緑金寂静」は、この4字熟語の形では仏教用語に無いようですが、「寂静」は“涅槃寂静”ないし“寂静印”のことで、煩悩を消し去った静かな悟りの境地を指します。また、こうした悟りの姿が、他の宗教とは違う仏教特有のものであることを意味します。「緑金」はよく分かりませんが、“金緑石”という鉱物はあります:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=158
金緑石(クリソベリル)は、アルミニウムの酸とベリリウムの塩からなる鉱物で、研磨すると猫の瞳のような光の筋が現れるものは猫目石(キャッツアイ)と呼ばれ、魔除けの力があるとされる宝石です。また、光の加減によって色が変わるのもあり、これはアレキサンドライトと呼ばれます。
ともかく、「緑金寂静」という語で、作者は何か荘厳な光に満ちた静かな世界をイメージしているのではないでしょうか。
(つづく)
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