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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/17(金)
「恐竜の森(3)」

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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=16&bkrow=0
作者のイメージするジュラ紀・白亜紀の森林で注目すべき点は:

@森林の中は「まっくら」。

Aプテラノドンのような翼竜が「けはしく歯を鳴らして飛ぶ」

B独白部分の中心モチーフだった「黒雲」は、その中生代の森林の中から、林内の流れが氾濫した「水けむり」が立ち上ったものだとされます。

Cそして、作者の視線は、「誰も見てゐない」林底を氾濫して流れる濁流に注がれます。


Aの「けはしく歯を鳴らして」は、

「唾し はぎしりゆききする
 おれはひとりの修羅なのだ」

という・作品「春と修羅」の詩句を想起させないでしょうか?賢治ワールドの白亜紀に生息する翼竜☆は、「修羅」のひとつの姿なのかもしれません。

☆(注) 有名なプテラノドン(白亜紀)は歯がありません。歯のある翼竜ならば、プテロダクテュルス(ジュラ紀)になります:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=157

B:賢治の心象ワールドでは、このように、あるモチーフ(オブジェ)が注目されると、それに触発されて新たな世界(例えば中生代の森林)が開かれてゆくというように、連想で繋がったさまざまな世界が現れては消えてゆきます。

Cの濁流は、「パート三」にあった「暗く…鈍つてゐる」沢水から繋がってきているモチーフですが、農場入口のスケッチでは、流れずに淀んでいた水のイメージが、いまや氾濫する激しい濁流となって流下して行きます。
そういったイメージの変化に対応する感情──必ずしも表面には現れない深層の感情──の変化を読み取ることができます:http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=9&bkrow=0

07小さな沢と青い木だち
08沢では水が暗くそして鈍つてゐる
09また鉄ゼルの fluorescence

「誰も見てゐない」という語句も重要です。たしかに、地質時代の風景は、人間が誰も見ていなくても確かに存在し生起する世界です。人間が誰も見ていないヒマラヤの奥地でも、また宇宙の果てでも、自然のドラマは絶え間なく生起し続けているのです。
しかし、それにも劣らない驚異は:作者の心象の奥底を流れる濁流は、誰も気がついていないのに…作者自身さえ意識していなくとも…たしかに存在し生起しているのです。
自分の深層を流れる‘濁流’の存在を意識したので、勇気が湧いてきたのでしょうか、89行目からの独白は高揚していますが、
まわりの景色は目に映らないナマの独白です:

89いまこそおれはさびしくない
90たつたひとりで生きて行く
91こんなきままなたましひと
92たれがいつしよに行けやうか
93大びらにまつすぐに進んで
94それでいけないといふのなら
95田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ
96それからさきがあんまり青黒くなつてきたら……
97そんなさきまでかんがへないでいい
98ちからいつぱい口笛を吹け
99口笛をふけ 陽の錯綜
100たよりもない光波のふるひ

しかも、高揚した調子とはうらはらに、「それからさきが…」、「たよりもない光波のふるひ」、などに、ぐらぐらと動揺し続ける不安な気持ち★が現れています。「ちからいつぱい口笛を吹け」という自分への励ましが、かえって自信の持てない不安な心中を吐露しています

★(注) 「青黒くなってきたら」については、以前に論じました:http://kdiary1.fc2.com/cgi-bin/d.cgi/giton/?dt=20121028
(つづく)
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