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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/16(木)
「恐竜の森(2)」

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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=15&bkrow=0
賢治の科学知識が正確かどうかということよりも、鑑賞者として注目すべきは、その黒々とした「氷片」の雲のむらに触発された感情の内容です:

78それらかヾやく氷片の懸吊をふみ
79青らむ天のうつろのなかへ
80かたなのやうにつきすすみ
81すべて水いろの哀愁を焚(た)き
82さびしい反照の偏光を截れ

雲全体は真っ暗なのに、内部の氷片は輝いているのです。そうした輝かしくも暗い情念を経由して、「青らむ天」の虚無の中へ「刀のやうに突き進み/…さびしい反照の偏光を截(き)れ」と、自らに呼びかけています。
作者が向かって行くのは、目映い光と絶対的な闇黒がないまざった世界であり、それは何らの慰めもない「うつろ」な世界ですが、「水いろの哀愁」の火が焚かれ、「さびしい反照」が、ちらちらとまたたいています★。そうした絶望的な世界へ、むしろ自分から突き進んで行こうと言うのです。

★(注) 「偏光」:光が大気中の微粒子によって散乱されると、特定の方向への偏光(光=電磁波の振動の偏り)が生じます。したがって、自然の光は多かれ少なかれ偏光を持っていますが、偏光フィルター(ニコル)を透過させると、特定の方向に偏った偏光を得ることができます:http://www.gen.t-kougei.ac.jp/physics/Virtual-LW/11/index.html

ここで、「刀のやうに」、あるいは「水いろの哀愁」などの語句に注目すると、

74みんなさくらの幽霊だ
75内面はしだれやなぎで
76鴇いろの花をつけてゐる

という・前の詩行と関連させて深層心理学的な解釈を加えることもできます。「かたな」は勃起した男性器、つまりリビドー(性衝動)の象徴で、この寂しさと衝動に満ちた独白は、失われた・あるいは手の届かない性的対象への渇望を表現していると見ることです。
このような‘科学的’な──つまり作者にとっては外的な──解釈が、作品の理解にとってどんな意味を持つのか、ギトンにはよく分かりません。しかし、作者の心象が無意識のうちに向かっている方向を見定めることにはなるかもしれません。
独白のきっかけは「さくらの幽霊」でした。「四五本」の「さくら」は、このあと何度か想起されるうちに、「五本」になり(109行目)、「四本」になり(134行目)、最終的に「四本」という数に確定します。おそらくその段階に至ると、作者自身にもその象徴する内実◇がはっきりと意識されるのではないかと思います。

◇(注) 先取りして言いますと、この「四本の桜」は、盛岡高等農林在学時代の文芸誌『アザリア』の4人の同人(小菅健吉、宮澤賢治、保阪嘉内、河本義行)を指しています。

http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=16&bkrow=0

83いま日を横ぎる黒雲は
84侏羅や白堊のまつくらな森林のなか
85爬蟲がけはしく歯を鳴らして飛ぶ
86その氾濫の水けむりからのぼつたのだ
87たれも見てゐないその地質時代の林の底を
88水は濁つてどんどんながれた

83行目で、「海綿白金」の実体が現れました。黒い雨雲が太陽を隠しながら、太陽の表面を通過しているのです。
そして、独白は一転して幻想世界のスケッチとなり、中生代の森林の中へ飛んでいきます。
「侏羅や白堊」は、中生代の恐竜全盛時代であったジュラ紀、白亜紀:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=157
白亜紀末の‘隕石衝突事件’で大型爬虫類が笆ナし新生代になることは、現在では公知のことがらでしょう(「ドラエモン」見た人にはねw)。賢治の時代には、まだ知られていませんでしたけれども。
(つづく)
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