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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/15(水)
「恐竜の森(1)」

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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=15&bkrow=0

それでは、78行目以下の最初の独白部分に入って行きましょう。この独白の導入となるのは、77行目の括弧書きのスケッチです:


77 (空でひとむらの海綿白金(プラチナムスポンヂ)がちぎれる)
78それらかヾやく氷片の懸吊をふみ
79青らむ天のうつろのなかへ
80かたなのやうにつきすすみ
81すべて水いろの哀愁を焚き
82さびしい反照の偏光を截れ

辞書は引いてみるものですね。「白金海綿」(はっきんかいめん)とは、
「塩化白金酸アンモニウム(NH(/4))(/2)[PtCl(/6)]を700〜800℃に加熱した際に残る黒色海綿状の白金。表面積が大きく触媒として用いられる」(百科事典マイペディア)
「ヘキサクロロ白金(IV)酸のアンモニウム塩を加熱して(700〜800℃)得られる、黒色海綿状の白金。表面積が大きく、酸化・還元の触媒として利用される。」(大辞林)
(白金は)「よく砂礫中に粒子または砂の形で産出されるので、これを選鉱して白金鋼にする。これは王水にとかしてクロロ白金酸を作り、塩化アンモニウムを加えて沈澱させて他の金属と分離する。このようにして得たクロロ白金酸アンモニウム(NH4)2PtCl6を700〜800℃で加熱すれば海綿状になった黒色の白金海綿を得る。(NH4)2PtCl6 → Pt+2NH4Cl+2Cl2 白金海綿を融解または鍛造して白金塊を得る」(http://www.smmetal.co.kr/viewproduct_3_j.html)
とあります。
つまり、スポンジのような多孔質に造った単体金属の白金で、見た目は黒色です。多孔質で表面積が大きいので、化学反応の触媒として使われます。
ルビの「プラチナム・スポンヂ」はラテン語(platinum spongi)で、「海綿の白金」という意味です。慣用の訳語「白金海綿」より賢治の「海綿白金」のほうが、原語の正確な訳になっていますね。

そこで、77行目の「海綿白金」ですが、まばゆく輝く空に浮かぶ真っ黒な雲ではないでしょうか。
「パート二」の最初で、「雨はけふはだいじやうぶふらない」と言っていましたが、あんのじょう降り出しそうな気配ですね。

しかし、賢治は「海綿白金」の黒々とした光景に触発されて、雨のことよりも自分のナマの感情に深く沈潜して行きます。「海綿白金がちぎれる」は、「例の「北ぞらのちぢれ羊」(雲とはんのき)、「向ふの縮れた亜鉛の雲」(屈折率)などの縮れ雲のモチーフに似ていますが、それらよりも暗く、真っ黒です。

78それらかヾやく氷片の懸吊をふみ
79青らむ天のうつろのなかへ

「氷片の懸吊」とは、氷の砕片が空に宙吊りになっているという意味でしょうが、「海綿白金」の黒い縮れ雲のことを言っているのだと思います。
正確な気象学の知識によりますと、黒い雲は、低空で雨つぶの大きな粒子を含んでいるために、太陽光の散乱度が低くなって黒く見えるようです。つまり、黒く見えるのは水滴です。
しかし、作者の考えでは、氷結して氷(こおり)になった雲の粒子が黒く見えると思っているようです☆。それは、黒々した「海綿白金」の光景に触発された暗い感情から、寒々とした氷塊が想像されるのでしょう。

☆(注) このように、賢治の心象スケッチに散りばめられた科学知識は、必ずしも正確な科学ではないことが分かります。しかし、“SF小説”(←物理学などの正確な知識に照らせばとうてい成り立たない内容であることがしばしば指摘されます)が市民権を得ているこんにちでは、このような準科学的な自然理解も、それなりに創り上げられた作品世界として鑑賞すればよいのではないでしょうか。
(つづく)
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