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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2013/05/10(金)
「さくらの幽霊(2)」

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ちなみに、現代の日本で‘花見’の対象になっているのは、もっぱらソメイヨシノ☆の植栽樹です。日本全国同じ一つの品種ですから、咲いている期間も短く、あっというまに散ってしまいます。“桜前線”は、ソメイヨシノの開花時期を示すものです。

☆(注) ソメイヨシノは、幕末〜明治初期に、江戸の染井(現在、豊島区の染井墓地)にあった園芸師の集落で、エドヒガンとオオシマザクラ(カスミザクラの変種)を交配して人工的に造られた園芸品種です。しかも、最近のDNA調査によると、ソメイヨシノ桜は、どれも同一クーロンであると考えられます!! つまり、日本全国にあるソメイヨシノも、海外にあるのも、すべて‘同一の木’なのです。


しかし、江戸時代以前に‘花見’の対象となっていたのはヤマザクラでした。野生のヤマザクラは、さまざまな品種が混交して生えていますから、ある個体が散るころに近くの別の個体が開花する…というように、山全体としては非常に長い期間にわたって桜が咲いているのです:

あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば いたく恋ひめやも 
〔山の桜ばなのように、こんなに毎日咲き続けていたら、恋しくなったりはしないでしょうに〕 (万葉集 山部赤人)

春霞 たなびく山の 桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな 〔眺めても眺めても飽きない長期間の花見!〕(古今 詠人不知)

春霞 たなびく山の 桜花 うつろはむとや 色かはりゆく 〔さまざまな品種が次々に散っては咲くので、山全体の花の色は変化してゆく〕(古今 詠人不知)

しらくもに まがふ桜の こずゑにて ちとせの春を 空に知るかな 〔咲き続ける山桜は、まさに「千歳の春」〕 (金葉和歌集 待賢門院中納言)

このように、ヤマザクラが対象だった時代の花見は、2ヶ月あまりにわたる息の長い・のどかな趣向だったのです。

有名な奈良県吉野山の“千本桜”もヤマザクラでして、例えば↓西行が吉野の桜を詠んだ歌を「山家集」の収録順に並べてみると、いかに長期間にわたる気の長い‘花見’だったかが分かりますw★

★(注) 現代の撰者は、咲いてすぐに散るソメイヨシノを見馴れた先入観で‘散るのを惜しむ’風情の歌ばかりを選りぬいて並べています。いわば、われわれはエセ日本風に‘改造された’西行を見せられているわけでして…、やはり原典に当たることの重要さを痛感しますねwwww

待つにより 散らぬこころを やまざくら 咲きなば花の 思ひ知らなん 〔待っていたのだ、山桜よ、「散らぬ心」を知ってほしい!〕

おぼつかな いづれの山の 峯よりか 待たるる花の 咲きはじむらん

おしなべて 花のさかりに 成りにけり 山の端ごとに かかるしらくも

よし野山 こずゑの花を 見し日より 心は身にも そはず成りにき 〔山桜が咲き始めたために、うきうきと落ち着かない状態がずっと続いている〕

あくがるる 心はさても やまざくら 散りなんのちや 身に帰るべき 〔山桜が散るまで、この狂躁状態がずっと続くのだろうか〕

身をわけて 見ぬこずゑなく 尽くさばや よろづの山の 花のさかりを 〔吉野のすべての山を訪ねて満開の桜を見尽くしたいものだ〕

ならひありて 風誘ふとも 山ざくら 訪ぬるわれを 待ちつけて散れ 〔私が見に行くまで散ってはならぬぞよ〕

花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の とがには有りける 〔人がおおぜい花見に来てウルサくなるのだけは、桜の悪い点だ〕

花も散り 人も来ざらん ワりはまた 山のかひにて のどかなるべし 〔桜が散ったら人が来なくなって、のどかな山峡に戻るだろう…って、いつのことやら

散ると見れば また咲く花の にほひにも おくれさきだつ ためしありけり 〔一本の山桜が散れば、別の一本が咲きはじめ、山桜の開花は続く…ちょうど人々の遅れ先立つ生き死にのように〕

散りそむる 花の初雪 降りぬれば 踏みわけまうき しがの山ごえ 〔ついに山桜が散り始めるころ、花吹雪の峠道を越える〕

はる風の 花のふぶきに うづまれて ゆきもやられぬ しがのやまみち 〔同じく〕

もろともに われをも具して 散りね花 浮世を厭ふ 心ある身ぞ 〔散る花よ、私も、もろともに、あの世へ連れて行ってほしい〕

ながむとて 花にもいたく馴れぬれば 散る別れこそ 悲しかりけれ 〔長い期間にわたって眺めていた桜が散ってしまうのは悲しいことだ〕

よしの山 ひとむら見ゆる しらくもは 咲き遅れたる さくらなるべし 〔散りつくしたかと思えば、遠くの山にはまだ咲いている桜がある〕

  (以上:西行「山家集」より)


いかがでしょうか?…

サクラはパッと散るものだ… なんていうのは、最近百年以内の… 染井墓地の誰かさんがハヤらしたハヤリでして
じつは、日本の伝統でもなんでもない… ってことが分かっていただけたでしょうか?(^^)/
(つづく)
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