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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。
2013/04/26(金)
「鋼青の空(4)」
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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=12&bkrow=0
「馬車のラツパがきこえてくれば
ここが一ぺんにスヰツツルになる」
「スヰッツル」はスイス(英語:Switzerland)のこと。
「馬車のラッパ」は、小岩井農場の場内を走っている軌道式の“馬トロ”が、停車駅に近づいた時に鳴らす笛で、じっさいはトランペットやホルンではなく、豆腐屋の笛(チャルメラ)だったそうです(『賢治歩行詩考』pp.34-35.)
このパッセージは、【下書稿】では、
「馬車の笛がきこえる、
石版画を持って来る。
それから私のこゝろもちはしづかだし
どうだらうこゝこそ天上ではなからうか
こゝが天上でない証拠はない
天上の証拠は沢山あるのだ」
となっていました。「石版画」は、アルプスの風景を描いた西洋の版画でしょうか?……たとえば、こちらのブリューゲルのような:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=151
あるいは、「天上」を描いたもの??
いずれにしろ、「馬車の笛」を聞いて、アルプスのような、あるいは空の上のような風景が展開したのです。「天上」は、パラダイスや極楽というよりは、文字どおり天の上の‘成層圏の風景’を思い浮かべているのでしょう。
そこで、「天上の証拠」として挙がっているものを見れば、
【下書稿】では:
「天上の証拠は沢山あるのだ
そら遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
落葉松(ラリックス)の芽は緑の宝石で
ネクタイピンにほしいほどだし
たったいま影のやうに行ったのは
立派な人馬の徽章だ
騎手は若くて顔を熱らせ
馬は汗をかいて黒びかりしてゐた。」
鷹が遠くの空を切って飛んで行った
落葉松(からまつ)のきらきら輝く芽
「立派な人馬の徽章」★が影のように走り過ぎて行った。
これだけだと、雄大かつ爽快な雲の上のイメージですが、
次の2行まで読むと、
「天上」は、かなり官能的なイメージの世界ではないでしょうか:
「騎手は若くて顔を熱(ほて)らせ
馬は汗をかいて黒びかりしてゐた。」
疾駆する馬と若い騎手の汗の混じった濃厚な官能の匂いがしてきそうですね。
そして、このクダリが、初版本では、次のように刈り込まれて、つづめられた表現になっています:
「遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
(騎手はわらひ)赤銅(しやくどう)の人馬の徽章だ」
完成された心象スケッチでは「くらっと青く走って行った」としか書かれていませんが、その含みこんでいる中身は、これだけふくよかな官能的な内容なのです。
このことは、賢治詩を読む場合に注意すべきことかもしれません。
とくに、賢治の多用する「青」という色彩語が出てきたときは、その背景にどれだけ豊かな官能が隠されているか、いちど考えてみたほうがよいのだと思います。
★(注) 「人馬の徽章」は、人が乗って走っている馬(あるいは人馬ケンタウロス)をデザインした徽章か商品マークが、当時あったのではないでしょうか。当時盛岡には第三旅団騎兵連隊があって、岩手山麓でしばしば騎兵演習をしていましたし、斥候の騎兵が農場内を通ることもありました:
http://www.morioka-times.com/news/2011/1109/24/11092403.htm
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2u=http%3A%2F%2Fwww.morioka-times.com%2Fnews%2F2011%2F1109%2F24%2F11092403.htm
「人馬の徽章」は、じっさいに騎兵が見えたか、その姿を幻視したのでしょうか。
ネット検索では、現・陸上自衛隊第1師団第1戦車大隊(静岡県御殿場市)がケンタウロスをあしらったシンボルマークを持っていることしか分かりませんでした
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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=12&bkrow=0
「馬車のラツパがきこえてくれば
ここが一ぺんにスヰツツルになる」
「スヰッツル」はスイス(英語:Switzerland)のこと。
「馬車のラッパ」は、小岩井農場の場内を走っている軌道式の“馬トロ”が、停車駅に近づいた時に鳴らす笛で、じっさいはトランペットやホルンではなく、豆腐屋の笛(チャルメラ)だったそうです(『賢治歩行詩考』pp.34-35.)
このパッセージは、【下書稿】では、
「馬車の笛がきこえる、
石版画を持って来る。
それから私のこゝろもちはしづかだし
どうだらうこゝこそ天上ではなからうか
こゝが天上でない証拠はない
天上の証拠は沢山あるのだ」
となっていました。「石版画」は、アルプスの風景を描いた西洋の版画でしょうか?……たとえば、こちらのブリューゲルのような:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=151
あるいは、「天上」を描いたもの??
いずれにしろ、「馬車の笛」を聞いて、アルプスのような、あるいは空の上のような風景が展開したのです。「天上」は、パラダイスや極楽というよりは、文字どおり天の上の‘成層圏の風景’を思い浮かべているのでしょう。
そこで、「天上の証拠」として挙がっているものを見れば、
【下書稿】では:
「天上の証拠は沢山あるのだ
そら遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
落葉松(ラリックス)の芽は緑の宝石で
ネクタイピンにほしいほどだし
たったいま影のやうに行ったのは
立派な人馬の徽章だ
騎手は若くて顔を熱らせ
馬は汗をかいて黒びかりしてゐた。」
鷹が遠くの空を切って飛んで行った
落葉松(からまつ)のきらきら輝く芽
「立派な人馬の徽章」★が影のように走り過ぎて行った。
これだけだと、雄大かつ爽快な雲の上のイメージですが、
次の2行まで読むと、
「天上」は、かなり官能的なイメージの世界ではないでしょうか:
「騎手は若くて顔を熱(ほて)らせ
馬は汗をかいて黒びかりしてゐた。」
疾駆する馬と若い騎手の汗の混じった濃厚な官能の匂いがしてきそうですね。
そして、このクダリが、初版本では、次のように刈り込まれて、つづめられた表現になっています:
「遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
(騎手はわらひ)赤銅(しやくどう)の人馬の徽章だ」
完成された心象スケッチでは「くらっと青く走って行った」としか書かれていませんが、その含みこんでいる中身は、これだけふくよかな官能的な内容なのです。
このことは、賢治詩を読む場合に注意すべきことかもしれません。
とくに、賢治の多用する「青」という色彩語が出てきたときは、その背景にどれだけ豊かな官能が隠されているか、いちど考えてみたほうがよいのだと思います。
★(注) 「人馬の徽章」は、人が乗って走っている馬(あるいは人馬ケンタウロス)をデザインした徽章か商品マークが、当時あったのではないでしょうか。当時盛岡には第三旅団騎兵連隊があって、岩手山麓でしばしば騎兵演習をしていましたし、斥候の騎兵が農場内を通ることもありました:
http://www.morioka-times.com/news/2011/1109/24/11092403.htm
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2u=http%3A%2F%2Fwww.morioka-times.com%2Fnews%2F2011%2F1109%2F24%2F11092403.htm
「人馬の徽章」は、じっさいに騎兵が見えたか、その姿を幻視したのでしょうか。
ネット検索では、現・陸上自衛隊第1師団第1戦車大隊(静岡県御殿場市)がケンタウロスをあしらったシンボルマークを持っていることしか分かりませんでした
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