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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。
2013/04/19(金)
「もう入口だ(4)」
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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=9&bkrow=0
しかし、なによりも、「小岩井農場」と同じ日付を持つ衝撃的な作品〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕は、
「小岩井農場」の「緊那羅のこどもら」の跳躍する姿と直接きびすを接して表裏の関係にあるのです:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=95
そして、さらに注目されるモチーフは、
「(五本の透明なさくらの木は
青々とかげらふをあげる)」
という括弧書きの2行です。「透明なさくらの木」は、「さくらの幽霊」という表現でも現れますが、盛岡高等農林時代の賢治の文芸同人たち──保阪嘉内ほかの“アザリアの4人”を隠喩しているという説もあります★。
★(注) 菅原千恵子『宮沢賢治の青春』pp.172-173. なお、この箇所ではどうして4本ではなく5本なのかは、ギトンには分かりません。
さて、「パート三」に戻って先へ進みましょう:
37木立がいつか並樹になつた
この設計は飾絵式だ
けれども偶然だからしかたない
ここは、じっさいに人工的に並木が植えられているわけではなく、木立ちの並び方が並木に見えるということのようです。「偶然だからしかたない」とは、そういう意味でしょう。しかし、その並木が「飾絵式だ」とは、どういうことでしょうか?
部屋に飾る絵のように綺麗な並木になっているということでしょうか…
並木の絵といえば、思い出すのは、ルネ・マグリットの「白紙委任状」(La Carte Blanche)という作品:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=149
http://www.staff.vu.edu.au/sokolov/Library/Art/Rene%20Magritte/Carte%20Blanche%201965.jpg
1965年の絵ですから、もちろん宮沢賢治がこの絵を見た可能性はないわけですが…
ともかく、この絵のように、まるで人工的に配置されたようにきれいに木が生えた林内なのではないでしょうか。
40荷馬車がたしか三臺とまつてゐる
生な松の丸太がいつぱいにつまれ
陽がいつかこつそりおりてきて
あたらしいテレピン油の蒸氣壓
45一臺だけがあるいてゐる。
……………………
51この荷馬車にはひとがついてゐない
『賢治歩行詩考』(pp.32-34)によると、この3台の荷馬車は、間伐した松材(アカマツ)を積んで運んでいるところだったようです。伐採されたばかりの丸太に陽があたって、松脂や精油の匂いが放散しています。
テレピン油(テレビン油)は、マツ科の樹木や松脂を乾留、水蒸気蒸留して得られる精油で、塗料、ワニスの溶剤、医薬品の成分として使われます。
油絵に使う“うすめ液”は、松脂の水蒸気蒸留によるテレビン油です。特有の芳香があります。
賢治は──また、賢治の妹とし子も──このテレビン油の芳香がとくべつに好きでした。松林の中や松の枝も、テレビン油に似た匂いがするので好んだのだと思われます。
とし子の臨終を詠んだ詩の一つ「松の針」には:
http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=988375&pgno=5&bkrow=0
「 さつきのみぞれをとつてきたよ
あのきれいな松のえだだよ
おお おまへはまるでとびつくやうに
そのみどりの葉にあつい頬をあてる
……………………
《ああいい さつぱりした
まるで林のながさ來たよだ》
鳥のやうに栗鼠のやうに
おまへは林をしたつてゐた
……………………
そら
さわやかな
terpentine(ターペンテイン)の匂もするだらう」
と詠まれています。"turpentine"☆ は、テレビン油の英語名。
☆(注) テクストの "terpentine" は、スペルの誤りと思われます。
また、童話『車』は、街頭に立って、町の人から小間使い仕事や施しをもらっている貧しい少年ハーシュの話ですが、建築の親方に頼まれて、車を挽いて、松林の裏側にある工場へテレビン油をもらいに行きます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/4409_26674.html
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2d=qpgzai&_mfc2u=http%3a%2f%2fwww.aozora.gr.jp%2fcards%2f000081%2ffiles%2f4409_26674.html
(つづく)
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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=990474&pgno=9&bkrow=0
しかし、なによりも、「小岩井農場」と同じ日付を持つ衝撃的な作品〔堅い瓔珞はまっすぐに下に垂れます〕は、
「小岩井農場」の「緊那羅のこどもら」の跳躍する姿と直接きびすを接して表裏の関係にあるのです:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=95
そして、さらに注目されるモチーフは、
「(五本の透明なさくらの木は
青々とかげらふをあげる)」
という括弧書きの2行です。「透明なさくらの木」は、「さくらの幽霊」という表現でも現れますが、盛岡高等農林時代の賢治の文芸同人たち──保阪嘉内ほかの“アザリアの4人”を隠喩しているという説もあります★。
★(注) 菅原千恵子『宮沢賢治の青春』pp.172-173. なお、この箇所ではどうして4本ではなく5本なのかは、ギトンには分かりません。
さて、「パート三」に戻って先へ進みましょう:
37木立がいつか並樹になつた
この設計は飾絵式だ
けれども偶然だからしかたない
ここは、じっさいに人工的に並木が植えられているわけではなく、木立ちの並び方が並木に見えるということのようです。「偶然だからしかたない」とは、そういう意味でしょう。しかし、その並木が「飾絵式だ」とは、どういうことでしょうか?
部屋に飾る絵のように綺麗な並木になっているということでしょうか…
並木の絵といえば、思い出すのは、ルネ・マグリットの「白紙委任状」(La Carte Blanche)という作品:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle/?no=149
http://www.staff.vu.edu.au/sokolov/Library/Art/Rene%20Magritte/Carte%20Blanche%201965.jpg
1965年の絵ですから、もちろん宮沢賢治がこの絵を見た可能性はないわけですが…
ともかく、この絵のように、まるで人工的に配置されたようにきれいに木が生えた林内なのではないでしょうか。
40荷馬車がたしか三臺とまつてゐる
生な松の丸太がいつぱいにつまれ
陽がいつかこつそりおりてきて
あたらしいテレピン油の蒸氣壓
45一臺だけがあるいてゐる。
……………………
51この荷馬車にはひとがついてゐない
『賢治歩行詩考』(pp.32-34)によると、この3台の荷馬車は、間伐した松材(アカマツ)を積んで運んでいるところだったようです。伐採されたばかりの丸太に陽があたって、松脂や精油の匂いが放散しています。
テレピン油(テレビン油)は、マツ科の樹木や松脂を乾留、水蒸気蒸留して得られる精油で、塗料、ワニスの溶剤、医薬品の成分として使われます。
油絵に使う“うすめ液”は、松脂の水蒸気蒸留によるテレビン油です。特有の芳香があります。
賢治は──また、賢治の妹とし子も──このテレビン油の芳香がとくべつに好きでした。松林の中や松の枝も、テレビン油に似た匂いがするので好んだのだと思われます。
とし子の臨終を詠んだ詩の一つ「松の針」には:
http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=988375&pgno=5&bkrow=0
「 さつきのみぞれをとつてきたよ
あのきれいな松のえだだよ
おお おまへはまるでとびつくやうに
そのみどりの葉にあつい頬をあてる
……………………
《ああいい さつぱりした
まるで林のながさ來たよだ》
鳥のやうに栗鼠のやうに
おまへは林をしたつてゐた
……………………
そら
さわやかな
terpentine(ターペンテイン)の匂もするだらう」
と詠まれています。"turpentine"☆ は、テレビン油の英語名。
☆(注) テクストの "terpentine" は、スペルの誤りと思われます。
また、童話『車』は、街頭に立って、町の人から小間使い仕事や施しをもらっている貧しい少年ハーシュの話ですが、建築の親方に頼まれて、車を挽いて、松林の裏側にある工場へテレビン油をもらいに行きます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/4409_26674.html
http://c.fc2.com/m.php?_mfc2d=qpgzai&_mfc2u=http%3a%2f%2fwww.aozora.gr.jp%2fcards%2f000081%2ffiles%2f4409_26674.html
(つづく)
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