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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2012/10/06(土)
「まちの灯へ(3)」

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http://id43.fm-p.jp/530/giton/index.php?module=viewbk&action=ppg&stid=1&bkid=986296&pgno=6
前のスケッチで、身体の奥から湧き上がるような春の衝動を見て、ページをめくりましたのに、
これはまた、どうしたことでしょうか!?

「骸骨星座」とは、夜明けに次第に暗い星が見えなくなって、1、2等星だけになった星座を云っているようです。
しかし、「青じろい骸骨星座」という語句は、それ以上のものを想像させます。作者も、明け方の夜空を見て「骸骨星座」という言葉を思いついたとたんに、その言葉のハレーションによって、恐ろしげな心象に入り込んで行ったのではないでしょうか。

道の泥は凍結して、まだ寒い冬の未明の風景ですが、
雪解けの季節を示してもいます。

それなのに、題名は「ぬすびと」。そして、街の店先に一つだけ置かれた甕を、盗人が盗んで行こうとしています。
「長く黒い脚」は、電柱の影だという解釈が多いようですが、まだ日が出ていないのに、影ができるほど明るいでしょうか☆
むしろ、「長く黒い脚」の盗人を想像したほうが作者の意図にかなっているような気がします。

☆(注) 「二つの耳に二つの手をあて」は、碍子を付けた電柱の描写で…要するに「ぬすびと」とは、夜明けに見た電柱とその影のことだという解釈が行われています。しかし、賢治の描いた電信柱の絵を見ると、腕木は3本ついていて、碍子は両側に2個ずつありますから、電信柱の描写ならば、少なくとも「六つの耳に六つの手をあて」でなければならないはずです!
いずれにせよ、腕木が1本の電柱(ないし電信柱)を安易に想定するわけにはいかないと思うのです。(これ以上は重箱の隅をつつく話になるので、考証はこちらで http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=100
なお、「長く黒い脚」の人影は「冬のスケッチ」などにも現れており、賢治はしばしば、通行人の見立てや幻視として、この心象を見ていたと思われます:
「黒くもの下から
 少しの星座があらはれ 橋のらんかんの夢、
 そこを急いで その黒装束の
 脚の長い旅人が行き
 遠くで川千鳥が鳴きました。」
(「冬のスケッチ」(32))

「泥の乱反射」は、氷結した泥がでこぼこになって、星明かりを反射している様子でしょう。でこぼこに氷結した泥道を、渡るようにして歩いて来る「ぬすびと」。
「提婆の」甕とは、何でしょうか。
「提婆(だいば)」は、釈迦(シッダルタ)のイトコ提婆達多(Devadatta デーヴァダッタ)のことと思われます。デーヴァダッタは、シャカの弟子でしたが、分派して新しい教団を作った人で、シャカを殺そうとして地獄に落とされたと云われています。
しかし、デーバダッタの教団は、釈迦の仏教よりも厳しい戒律を持っていました。たとえば、信者(修行僧)はボロボロの服装をして戸外で生活しなければならず、屋内に入れば罪とする。托鉢で行った家の中へ招待された場合でも、入ることは禁じられていました。
ですから、「提婆のかめ」は、非仏教徒とか外道の家という意味ではなく、むしろ厳しすぎる戒律を含意した表現なのではないかと思います。
いずれにしろ、「ぬすびと」は、明け方の寒い時間に、寝静まった人家からは閉め出されているので、
店先に一つだけ出しっぱなしになっていた甕を取って、持って行こうとしているように思われます。

ところが、盗人は急に立ち止まります:

「にはかにもその長く黒い脚をやめ」

「やめ」は、立ち止まったという意味でしょう。
「電線のオルゴール」は、電線が風でビュウビュウと鳴っている音でしょう。
電線は、遙か遠くの世界に繋がっています。
人家に入って行けない「ぬすびと」は、耳に手を当てて、遙か遠くの世界からの通信とも思える電線の音に耳を澄ましているのです★

★(注) 「冬のスケッチ」の次の箇所を続けて読めば、「ぬすびと」が電柱などではなく、人(の幻視)であり作者自身であることは、明らかなように思えます:
「弓のごとく
 鳥のごとく
 昧爽[まだき]の風の中より
 家に帰り来れり。
  ※
 にはかにも立ち止まり
 二つの耳に二つの手をあて
 電線のうなりを聞きすます。」
(「冬のスケッチ」四(15)-(16))
なお、スペースが尽きたので、次回の ◆(注) に続けます。

同じ見開きのつぎのスケッチは、「恋と病熱」です。
このスケッチは、すでに以前に説明しましたが、もういちど見ておきましょう。
ここではじめて、「妹」──つまり、作者の現実的な生活の様子が分かる・家族への言及が現れました。
(つづく)
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