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ギトンのあ-いえばこ-ゆ-記(旧)

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ここは、2015.3.10.までの過去日記倉庫です。

2012/07/04(水)
「悲しき天気輪(1)」

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http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=71

「五輪峠」の〔C〕【下書稿(2)手入れ】を見ると、
スケッチの中に会話が織り込まれています。

「宇部興左エ門?……
 ずゐぶん古い名前だな
  ……………… 
 それでは山林でもあるんだな
    ……十町歩もあるさうです……
 それで毎日糸織☆を着て
 ゐろり★のヘりできせる★を叩いて
 政治家きどりでゐるんだな
  ………………」

☆(注) 「糸織」⇒http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=85

★(注) 「いろり」「きせる」⇒ http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=74

と、部落の地主の噂をしている様子ですが、
「ずゐぶん古い名前だな」の後に、【下書稿(2)】では、

「……そいつが君の部落の主(ぬし)か
 それをみんなで退治したいと云ふんだな」

という2行が挟まっています。
住民に古いしきたりを強要して、部落の雰囲気を窮屈にしている張本人なのかもしれないですね。

会話の口調や話の内容、また、この3月24日が花巻農学校の終業式の翌日であったことから、
賢治といっしょに歩いているのは、農学校の生徒らしいと分かります。

あとのほうに、「いま前に展く暗いものは/まさしく北上の平野である/……」というくだりがありますから、峠を越えると北上平野側の町や村、水沢市などが見えてきた様子です。
したがって、賢治とその生徒は、
東側から……おそらく、花巻から岩手軽便鉄道(現:JR釜石線)に乗って柏木平駅か鱒沢駅で下車し、徒歩で五輪峠を越えたものと思われます。

21行目に、「そこが二番の峠かな」とありますが、

http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=84(地図C)
たしかに、東から来ると、五輪峠の手前に、
二つの小さい峰に挟まれた峠のような場所(※)があります。

〔A〕【下書稿(1)】を見ると、

「(数文字不明)あの楢の木の柵のある
 ちいさな嶺を過ぎながら
 それを峠とおもったために
  ………………」

地図Cを見ると、(※)は牧野と植林地の境目なので、柵があるのは頷けます。

ところで、「楢の木の柵」のある峠と云えば……
覚えていますか?^^
まえに検討した「旅程幻想」で、(場所は三陸海岸の峠ですが)「放牧用の木柵の/楢の扉を開けたまゝ」来てしまったことが気になっていると書かれていました:http://blog.crooz.jp/gitonszimmer2/ShowArticle?no=53 (⇒「旅程幻想」B)

「旅程幻想」(1925年1月)では、最初の下書きでは「ひのきづくりの白い扉」だったのが「楢の扉」に変更されていたのですが…

そうすると、賢治は、ずいぶん後まで、この24年3月の五輪峠越えのことを覚えていて、
三陸旅行で感じた《不安》の原因に思い当たって、「楢の扉」に替えたのだと思われます。
五輪峠越えの相手に恋情が通じなかったことを、ずっと後まで残念に思っていたのでしょう。


〔B〕【下書稿(1)手入れ】に移って、「楢の木の柵」に対応する箇所を見ると:

「それからわたくしもそれだ
 この楢の木を引き裂けるといってゐる
 村のこどももそれで
 わたくしであり彼であり
 雲であり岩であるのは
 たゞ因縁であるといふ」

「この楢の木を引き裂けるといってゐる/村のこども」というのは、同行している生徒のことだと思います。
人通りのない霙の峠道で、いきなり「村の子供」が出てくるのはおかしいからです。
「旅程幻想」では、《牧場の柵》は、中にいる家畜が逃げるのを防ぐ役割をするものでした。その柵に付いている扉を、なかば故意に《開けっ放しにして来た》と回想していたことを思い出してほしいと思います。
生徒は、五輪牧野を囲っている「楢の木の柵」を自分は引き裂くことができると言っているのです。
「柵がじゃまだから、ぶっ壊して通りましょう」とか冗談を言ったのかもしれません。
しかし、賢治には(後日に推敲していた時の賢治には)、その生徒が、部落を支配しているという「糸織り」の山林地主の束縛を、力づくで突破しようとしているように感じられたかもしれません。

そう考えてみると、「旅程幻想」のほうの《つめたい日射しの格子》も、厳しい自然や風土というだけのものとは思えなくなってきます。「旅程幻想」が書かれたのは、この生徒の卒業から9ヵ月後。生徒は、実家に戻って、部落の中で苦労していたかもしれません。
《何か知らない巨きな鳥》のかすかな鳴き声のように、「先生、俺のことも忘れないで!」と遠くで叫んでいる声が、賢治には聞こえたのかもしれません…
(つづく)


 ばいみ〜 …☆⌒
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